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地球の温暖化は、CO2、CH4,N2Oのような大気中の少量・微量成分濃度が、人間活動で増加していることが原因で起こると予測されている。化石燃料消費で放出される二酸化炭素の量のうち、大気中の濃度増加がその半分程度であり、相当量の人為起源で放出される二酸化炭素が、海洋と陸上生態系(森林)という2つの大きなリザーバーに吸収されていると考えられる。炭素循環研究は、炭素循環図をできる限り正確・精密にすることへの貢献といってよい。炭素循環図を見る時に混乱を招きやすい問題点を指摘することから、展開すべき研究の方向を考えた。ストック(現存量)とフロー(移行量)の概念を明確にすること、定常的炭素フローと人為起源(エクセス)炭素フローを区別することを指摘した。今後の研究の中で、地球化学者の役割、地球観測の進め方を明らかにした。

(3)地球環境科学での同位体研究の役割−同位体で何がわかるか

地球科学研究において、同位体比測定の役割は強調し過ぎることはない。重要な温室効果ガスの起源や反応等が同位対比によって盛んに研究されている。最近になって、微少量の気体分子の同位対比や分子内の特定の部位の元素の同位対比を測定する技術が発展し、新しい展開をもたらしつつある。

(4)氷床コアが示す地球環境の過去と現在

地球規模の環境変動史の研究に南極の氷床コアは有力な試料である。氷床の動きを解明し、できるだけ長い時間に遡ることができるコアを掘削することが重要である。雪氷コアは水のほかに微量成分としてさまざまな物質を含み、それらは自然起源と人為起源に分けられる。自然起源の物質の発生源には土壌、海洋、火山、生物、砂漠、宇宙などがある。人為起源の物質は産業革命以降増加し、最近では核実験による人工放射性物質などが付け加わる。これらの物質から環境に関する情報に読み替えるためには、化学的な堆積機構の解明が重要である。

(5)大気微量物質の測定

「大気化学(Atmspheric Chemistry)」の歴史は浅いが、ようやく「地球化学」の一分野としての位置づけがなされようとしている。「大気化学」は地球大気組成の変化に関わる物質循環の解明を目的としている。特に「化学」出身の研究者に期待されているのは「大気微量物質の測定」に関わる部分であり、新しい測定法を開発し、これまで測れなかったもの、測定精度の低かったもの、in−Situで測定できなかったものなどに対する新しい測定法を開発し、測定法の高度化を図る部分である。大気微量物質の測定に関しては最近、大気光化学反応理論の検証に必要なOH、HO2、RO2ラジカルなどの超微量物質の測定が実現されつつあり、またこれと同時にNO、NO2などについても非常に高感度な測定器が開発されるようになった。また成層圏は既に測定されているCIOラジカルなどを含む無機ハロゲン類やこれまで測定法が確立していない物質の対流圏における測定も今後の課題である。こうした大気微量物質の測定を通じて21世紀の地球環境科学における地球大気化学の役割を探ってみた。

(6)地球環境科学に関する中核的研究機関について

平成7年4月、学術審議会は「地球環境科学の推進について」の建議を行い、地球環境問題の解決を目指す総合的な共同研究を推進するために、地球環境科学に関する中核的研究機関の設立の検討を提言した。この建議を踏まえて平成7年10月に調査研究会が設置され、地球環境科学の中核的研究機関の研究内容、研究方法及び組織等について検討を行ってきた。これまでの調査研究の中間まとめを報告した。

(7)総合討論

以上の講演を踏まえ、地球環境研究における地球科学の役割と可能性を総合的に討論した。

 

 

 

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